第22回短編映画コンクール(2023)作品講評

作品タイトル監督
グランプリたまには蜂蜜を。邉拓耶
準グランプリ回復タイム山口智誠
入賞つくもさん鹿野洋平
入賞優しいインコが暮らす街門田樹
一般審査員賞雫に濁る坂本保範
入選ありふれた風景 ショートバージョン人見健太郎
入選幽かな光山本善博
入選社畜 THE メタルファイヤー田邊馨
入選人類最後の日山後勝英
入選本社から来た男新谷寛行
特別審査員作品タイトル監督
工藤雅典 監督ねんどの城濱本昌宏
椿原久平 監督徒歩1分のコス田中亮丞
冨永憲治 監督MIKA&KURO福岡樹
鈴木元 監督幽かな光山本善博

「たまには蜂蜜を。」邉 拓耶

【審査委員長 品評】

 夢を追って都会に出て行ったまま、父親の葬儀にも帰宅しなかった弟がぶらっと帰ってくる。兄は温かく迎えてやるが、朝のウオーキングから戻ってきた母親は、溜まりに溜まっていた怒りをぶつけ、二度とうちの敷居は跨ぐなと叫ぶ。だが、やがては逆転、ハッピーエンドに。
 こう書くと、ストーリーの設定、展開、終結に、何らの新しさもないばかりか、その余りの通俗さに辟易する向きも多かろう。だが、筆者は、今回の10作品中、この作品を第一位としたばかりか、歴代の傑作群の中においても、決して引けを取らない作品と見て、今年度のグランプリとした。それは、何故か。
 この作品には、通俗的なものを、通俗的なものとしながら、新鮮な風合いに変えてしまう魔力がある。それは、兄弟を演じる男優二人の表情、所作、そして、何よりも、何気なく発せられるようでいながら、微妙に要点を突くせりふの力である。例えば、コーヒーをこれまでのように入れてやろうという兄貴に、ブラックでと注文を付ける弟。かつては、蜂蜜入りが常識だったから、兄貴は「(弟を変化させた)都会って怖いなァ」とぶつぶつ言いながらも、コーヒーを入れてやる。しかも、実は、甘い!と弟が叫ぶほどに、兄貴は蜂蜜を仕込んでいたのだ。また、母親が、帰ってきた息子を見て、どなたですか、という怒りの前触れに対して、当の弟が、息子の顔も判らんようになったんか、というと、出てけ、うちの敷居を跨ぐな!と怒りを爆発させたところで、兄貴が云う「ボケたのかなあ・・・」と続けるのが絶妙なのだ。また、おそらくは亡くなった父親が撮った運動会のビデオ、それをDVDに兄貴が変換し編集までしたというのを弟が見るシーン、これも定番すぎるところだが、リモコンが壊れていることにして捻りを利かす。この辺りの絶妙の呼吸が、画像で弟を応援する母親を写し出し、それが現実の母親の帰還へと繋ぐ常套手段を特化させるのだ。ワンカット長回しの手法も無理なく、この場の空気感を伝えている。結論として云えば、兄弟を演じた二人の俳優の手柄であり、コンビの良さであり、延いては、演出力の賜物である。


「回復タイム」山口 智誠

【審査委員長 品評】

 フィクションとしてのヒーロー像を地に堕として見せたところに、この作品の取り柄がある。しかも、その傷つき、エネルギーを失いかけているヒーローに心優しくかまってやるのが、これまた優しすぎるがために、心傷ついているヒロイン。傷ついたヒーローの求めに応じ、絆創膏を求めてきたばかりか、飲み水まで用意した。ヒーローに、絆創膏とは、<絆を創る>膏などと講釈させているが、水こそ力水、命の水である。そして、絆創膏だけを言い、頼みもしなかった水を買ってきてくれたことに、ヒーローはヒロインの優しさを云う。
作者は、現実に起こったひったくり犯から、女性のものを取り返し、犯人は逃したものの、犯人の動かぬ証拠としてその財布を奪ったという現実のヒーロー像を見せているが、この作品の眼目は、最後の場面がそうであるように、ヒロインに見送られるヒーローというメルヘンとして見られていいのではないか。


「つくもさん」鹿野 洋平

【審査委員長 品評】

 朝のリビングルームに薄物を敷いて寝ている若い男が誰かは直ぐに分かる仕掛けになっている。眠いと云ってなかなか起きてこない男に、すでに身支度を済ませている女が問うからだ。罪悪感を感じないの?と。そこへ、突然のピンポン。亭主ではなかった。亭主が予約しておいた出張査定屋の二人だった。米朝落語全集など愛好家垂涎の品が揃っているのだ。その査定屋の主任格の名がつくも(・・・)(九十九)、女は買い物に、査定屋の一人も用事で外へ。男を亭主と信じているつくも(・・・)は名刺を渡し、同時に免許証などの証明が必要になるというが、男は妻に任せてあるので彼女が戻ってから、と誤魔化す。そこへ、いよいよ、亭主の御帰還。幸い、査定屋の制服と同じ色のシャツを着ていた男は、つくも(・・・)の帽子をかぶり、先程貰った名刺を亭主に差し出して、つくも(・・・)です、と挨拶。そこへ、抜けていた査定屋が戻って来て、男をご主人呼ばわりするものだから、その男と一緒に這う這うの体で男は逃げ出す。入れ違うように戻ってきた女。男からのメールで亭主が帰ってきたことを知り、男も逃げた現在、言い繕う方便を考えてきたのかもしれないが、すでに、つくも(・・・)という男は今査定を終えたばかりのこの男であると知っている亭主に、もはやいかなる弁解も成り立ちようがない。だから、つくも(・・・)さんは、最後に、査定が終わりました、と云い、映画が閉じられたあとの黒味の部分で、全部終わりました、と締めくくるのだ。間男と亭主のドラマは笑劇の一つの定番だが、爽快な笑劇というには、どこか、みみっちく、笑える余裕がないのが今一つ。


「優しいインコが暮らす街」門田 樹

【審査委員長 品評】

 ワンカットで、と書きそうになって、そう云えば、足のサンダル履きが写されていたな、と思い返す。それにしても、男が街角に来て座り込み、携帯で友人に電話をするだけの、まさに「短編」の王道を行くような作品だ。いや、待て。王道ならグランプリだ。とても、これでは到達しない。どうしたら、出来るって? 電話の話に激烈かつ劇烈で逆転現象を呼び起こすようなストーリーを考え出したまえ。あるいは、話し手自身が忽然と消えてしまうとか。いやはや、いやらしいインコに対して、やさしいインコになるのは悪くはないが、もう少し汗をかかずば、グランプリの道は遠いよ。


「雫に濁る」坂本 保範

【審査委員長 品評】

 閻魔様から許しを得て、しかもお土産まで貰って、古いたたずまいのしかも見事な庭続きの屋敷に舞い戻ってきた愛嬌のある娘とそれを迎える美形の中老の女との曰くありげな一編の物語である。などというと、頗(すこぶ)る付きの何かが始まるかと云うと、そうでもない。すぐに、種は明かされ、かつて、娘が妹を救って自動車事故の犠牲となり、お蔭で
妹はこの年まで生きたお蔭で、幸せな結婚をし、三人の娘を産み、五人の孫まで授かったという。涙を見せたら、閻魔様にあの世へ戻される、ということだが、妹の切々たる感謝の言葉に(姉)娘の方が先に泣いてしまい、あの世へ連れ戻されたらしく、その場から消えてしまう。すでにこちらも死者である妹、中老の女も続いて消えていく。生き延びた年の違いで、娘が姉、中老の女が妹というところ、泣き虫の妹が普段は泣かない姉を先に泣かせてしまうところに、工夫があるのは認めるが、作者が思い込んでいるほどに、感興に結びつかないのが残念だ。


「ありふれた風景 ショートバージョン」人見 健太郎

【審査委員長 品評】

 都会に出て、ジュエリー店の助手を務めている青年が主人公だ。行きつけのバーで、故郷の話になって、急に湧き出した里心が、彼を故郷の両親のもとへ帰らせる。久しぶりの帰省に、両親はもちろん、兄夫婦、車で迎えに来てくれた友人や妹カップルら一同に歓迎されるが、今の自分の仕事をジュエリー・メーキング・インストラクターと自己紹介しても、しっくりせず、自信が持てない。故郷を出立するときの気概はもっと大きかったはずだと。だが、兄貴の励ましと病気が疑われている母親の為にも、足元をしっかり見つめなおす気になった青年に、駅まで送ってくれる父親からの依頼。それが再度の青年の帰省となって、父親から母親への結婚35周年記念のリングだったという種明かし。今、あえて、ラストでの種明かしのように書いたが、青年が仕事場で一心不乱にジュエリーに細工をしているのが写されているので、バレバレ。事ほど左様に、「ありふれた風景」と作者も自覚しているストーリーを、細部にわたって如何にきめ細かく描写するかが勝負。息子とのぎくしゃくした関係を何とか修復しようとする父親、それを補強する祖父のせりふ、兄の人間味溢れる忠告、それらで、ただの「ありふれた風景」にはしたくないという作者の志は見て取れるものの、それ以上に出ない。また、母親の病気については、やはり明解に始末をつけておいた方がいい。


「幽かな光」山本 善博

【審査委員長 品評】

 高校写真部の先輩ユウキ君が、念願の全国写真コンテストに、自信のあった写真を応募する前に交通事故に遇って死んだ。その事故には自分も責任がある。その自責もあって、幽霊部員と先輩部員から云われるほどに活動していなかった女子の山田が、写真に目覚め、ユウキ君の指導よろしきを得て、フィルムカメラに嵌り、遂には先輩の男女二人と組み写真を県のコンテストに応募して優勝するというのが筋書きだが、死んでいるユウキ君の幽霊と普通に会話し、また死者を司るという死神のメアリーの姿も話も見聞きできるという特殊な才能がこの山田に与えられているところに、この作品の存在理由がある。それを児戯に類すると見るか、映画の可能性(昔からあり過ぎではあるが)と見るか。幽霊に留まることも至難のようで、成仏するか、地(自)縛霊になるか、選択の余地があるらしい。ユウキ先輩は、今後とも山田との会話を楽しみたいらしく、部会室に地縛霊となって残ることを選んだとさ。稚拙ながら、微笑ましくはあり、幽霊と地(自)縛霊のアイデアは生かされている。


「社畜 THE メタルファイヤー」田邊 馨

【審査委員長 品評】

 持て余している才能を浪費している感がある。アニメーションも堂に入っているし、ストーリーも、三人三様の社畜を集めて、さて、何が起こるか、と見せておく辺りまでは、何とか見せる。だが、その後が、溜まりに溜まった欝憤を歌で晴らすだけとは、芸がない。芸が
なければ、つまらないので、それもまた、それを企画した音楽プロデューサーに搾取されるだけとした。言わば、社畜から歌畜へ。成り上がったのか、成り下がったのか。成り上がったのではあろう、正真正銘のカチクにはなったのだから。
 要は脚本を練り上げること。捲土重来を期待したい


「人類最後の日」山後 勝英

【審査委員長 品評】

 人はその人の持ち合わせている間尺でしか生きられない、「人類最後の日」となっても、特別な何かが生まれるわけでもない。というような、何か観念劇を予想したのだが(男二人の登場だからって、まさか「ゴドー」を期待したわけではないのだが、)同じ会社に勤めている先輩後輩の最後の日の会話は、一編の映画にするだけの価値あるものとは到底思えなかった。


「本社から来た男」新谷 寛行

【審査委員長 品評】

 タイトルが揮っている割に、中身がつつましく過ぎる。マンションの一室みたいな会社の事務所にアルバイトの青年が朝食持参で出勤だ。扉が既に開いていたのかどうか、気になるところだが、不問に付そう。すでに中老の男はいた。本社から来たという男の言葉で、社長さん?と勘違いする青年も青年だが、その社長さん(?)は図に乗って、青年を翻弄する。結局は、後から来る社員の一人のペテンに生きる父親だったという落ちがつくが、何の笑いも感興も湧きはしない。


工藤雅典監督・・・「ねんどの城」濱本 昌宏

『優しい日本人のぬるい絶望』

 濱本昌宏監督の「ねんどの城」が入選を逸した理由の一つに、家に引きこもりクレイアニメ作りに没頭する主人公・啓一が、収入を得る仕事も無いのに、小奇麗でそれなりに大きな家に住み、経済的に困っている様子もない事がリアリティに欠け、共感も呼ばないという見方があったと思う。啓一は自分の苦悩を、クレイアニメに登場するモグラのようなモンスターの、ザクザクと地中をいくら掘っても、出口が見つからない状況に重ねているが、その苦悩が一言で言うと「ぬるい」のだ。もっと言えば、甘っちょろく感じてしまう。一方、啓一が没頭するクレイアニメの世界は非常に美しいが、今にも壊れてしまいそうな儚さや不安も感じる。穿った見方かもしれないが、その「ぬるさ」と「漠然とした不安」こそが、今の日本社会の気分を上手く表現しているように思えてきた。

 両親はもういなくて、もうすぐ使い果たす親の遺してくれた遺産で暮らしながら、自分の「夢想」に閉じ籠って出口の見つからない啓一は、先人の果たした高度経済成長の遺産を使い果たして停滞する現代の日本社会のメタファーと考えると色々な物が作中に見えてくる。シングルマザーの妹・千賀とその息子・秀太、そして啓一を含め、登場人物は全て豊とは言えないにしても経済敵に困っている様子は無い。しかし、どこか幸せそうではなく、不安を抱えているように見える。そして、千賀は日本を見限り、日本人ではなく外国人との結婚を選ぶ。大人たちの体たらくを見ている秀太は、恐竜に憧れる。秀太は、自分自身が力を持たなければ生き延びられないと、本能的に感じているかのようだ。防衛費の増額に舵を切った今の日本のように。

 自分の世界に閉じ籠もってはいるが優しい啓一は、クレイアニメのモンスターに触れた秀太を一度は拒絶するが、秀太に自分と同じ孤独の影を感じたのか、やがて一緒にクレイアニメの世界に浸るようになる。主人公と秀太の交流が、この作品の一つの「救い」に感じる。しかし、つかの間の暖かな交流も終わり、千賀と秀太は台湾に旅立つ。残った啓一は、恐らく変わることができす、いつか何かの破局が訪れるまで、このまま出口は見つからず、漠然とした不安を抱えて生きていくだろう。旅立つ千賀と秀太にも、苦難が待ち受けていそうな予感がするが、粘土の恐竜を託された秀太に、小さな希望があると思いたい。監督には、そんな意図の作品じゃありませんよと言われてしまうのかもしれないが、こんな事を思ってしまった。今の日本社会への警鐘と捉えると、中々考えさせられる、面白い作品である。


椿原久平監督・・・「徒歩1分のコス」田中 亮丞

こだわりの小道具が随所にちりばめられていて
ストーリーを追いかけるとともに「あっ!」と思う場面を見つけては
一人笑っていました
特に週一深夜バイト店員鈴木君に一目惚れした奥手さんが
書籍コーナーで手にしていた雑誌の表紙に「恐怖のストーカー」というキャプション
オクテの奥手さんの表情佇まいと相まってとても良かったです
そして、元コスプレーヤー?ともちゃんのアドバイスで一念発起
オクテの奥手さんの気持ち高ぶるメイクシーンも印象に残りました
メイクってコスプレそのものですよね
鈴木くん目当てにコンビニ通いで貯めた冷蔵庫の野菜ジュースは15個だったでしょうか 
相手が会いも変わらず対応の鈴木くんだから仕方ない
果たしてお手製チャーミー奥手さんは鈴木くんと意を決し共闘して強盗退治で大大円
鈴木くんに勘違いされている野菜ジュース好きは払しょくされ
さらには奥手さんの恋は成就するのか?!=成就して欲しいですね
折角、アニメーションや小物や衣裳に拘りがあるのだから
キャラクターの光る部分を短編だからこそ突き詰めて
その運用にもう少し拘って欲しかった、もったいないと思う次第です
好きです 好きな作品なのでけれど、今回の入選作品との相対評価では
残念ながら、落選となりました
今後も是非、一つ一つを拘るにのはいいけれど、
全体のバランスを最重要に測ってください
自身の自戒の念から、「木を見て森を見ず」の言葉を贈ります
以上、田中亮丞監督の前途洋洋を祈念します


冨永憲治監督・・・「MIKA&KURO」福岡 樹

 私のピックアップは、福岡樹監督の「MIKA&KURO」です。毎年アニメ作品の応募も多く、一時はアニメ賞を作ればとの声も上がったほどです。年々CGアニメーションの比率も上がって、当たり前のように3D作品も増加しています。
 PCの進化、アプリの進歩でいろんなことが出来てしまうことが楽しくて、物語を語ることを疎かにしてしまう自己陶酔型。こんなことが出来ましたとテクニックを見せる作品。そして、「新しい映像」と叫んでしまう。これはアニメに限りません。
「MIKA&KURO」は、そんな間違いは犯していない。キャラクター設定や場面の構成などはきっちりと出来ていたと思う。さすがプロのCGモデラーと感じさせます。緻密に計算され、モデリングをされていますが、最も大事な疾走感、スピード感、重量感が希薄です。これはCGアニメーションの課題だと思います。思い切りの良いデフォルメと、実写で言うところの「流れ駒」を効果的に使う方法を研究して欲しい。
 リアリティーが全てではないが、冒頭正面からのバイクの前輪が左右に振れているのはなぜでしょうか?前輪が外れるのかと期待してしまいました。後ろ向きのKUROの耳が逆に流れるのはお愛嬌。バイクのスピード感はコーナリングに表れます。ハングオンでステップが擦れて火花が出ます。タイヤの接地面と扁平も一考です。鳩のよけ方も偶然に思えます。一気に道路脇の崖に駆け上がってしまいましょう。
 巨大4駆が止まりきれず危機に陥る。その危機感が淡泊。怒り?、恐怖?、諦め?そこにキャラクターの性根が見えてくるはず。鳩が動くことでバランスが崩れ奈落に落ちていくオチが、モデリングのデモンストレーションとエンドタイトルの後では効果が半減するのでは?ゲームの一場面ではファンも納得というところか。
 CGはすべて自分で設計し作り出すもの。些細なところに目をつむると面白さが一気に無くなってしまう。今年は最終10本に残らなかった作品についてということで、ちょっと嫌みな評になったことをお許し願いたい。


鈴木元監督・・・「幽かな光」山本 善博

 写真コンテストの優勝を目指している写真部の男子高校生。最高傑作をものにするが、エントリーする直前に後輩女子がデータを消去してしまい、焦った先輩は無理な追加撮影に臨み交通事故に遭って死んでしまう。優勝できなかった先輩は、この世に未練が残り成仏できずに近くをさまよっている。そんな幽霊見える系の能力がある後輩女子は、先輩を何とか成仏させてあげたいと奮闘することになる……。

 この短編に好印象を持った一番の理由は、素直な作品だなと思ったこと。撮り方はいたってシンプル、単純なカットバックの連続だ。生身の人間と幽霊や死神が見えたり見えなかったりする物語を、おそらく技術がないので、合成とかは考えずに全部実写で見せて行こうという方針がよかったのだと思う。

 今回見た二次審査作21本の半数くらいはプロまたはセミプロの作品だ。機材もそれなりのものを使い、とても上手い作品もある中で、この『幽かな光』の素人くささが、天邪⿁な審査員には魅力的に見えたのかもしれない。出演者も、先輩の母親以外は全員高校生なのだろうか、自然体の芝居がとてもいい。特に主人公の後輩女子の、どこにでもいそうな存在感が圧巻だ。

 写真コンテストの優勝を勝ち取り、先輩の未練を消し去ったつもりの後輩だったが、先輩は成仏しなかった。「もっと生きたい!」という思いが、最大の未練だったのだ。どうすれば成仏させてあげることができるのか?先輩の「生きたい」という思いの強さ、切実さ、くやしさをラストでもっと描ければグランプリが取れたかもと思ったが、現状のあっさりとしたドライな終わり方が今どきの高校生らしいのかなとも思った。作者に、その辺りのことを是非とも聞いてみたいと思っています。