映画「The Ozu Diaries」日本プレミア

Movie Review 映画『The Ozu Diaries』ジャパンプレミア
2025年11月2日/第38回 東京国際映画祭

小津安二郎記念・蓼科高原映画祭 広報 池上(記)

TOHOシネマズ 日比谷 スクリーン12 へ
映画『The Ozu Diaries』のジャパンプレミア へ行ってきました。
この幸運への感動と、当日の興奮をぎゅっと詰め込んで体験記を書いてみました。読んでいただけたらとっても嬉しいです。

この映画で、世界が驚いた“小津安二郎”を、ぜひあなたにも発見していただけたらと思います。


作品紹介
 『The Ozu Diaries』
監督:Daniel Raim(ダニエル・レイム)

これは『動く伝記』。小津の教科書。そして書籍からは得難い映画製作のバイブルです。

ドキュメンタリーでありながら、物語のように感じてしまうほど、「小津安二郎」という人の人生は激動で、そして何より一人の男として魅力的だったのだと、あらためて感じました。

ダニエル・レイム監督が、愛情と敬意を込め、脚色せず、曲解せず、美化もせず、そのままの姿をフィルムに収めてくれたからこそ、小津監督の生の姿が鮮やかに目の前に蘇ります。

優しくがたいも良くイケメンな天才映画監督。
主演女優さん方が、彼に愛されていると錯覚してしまう気持ちまで、映画を観ながら疑似体験してしまう瞬間も・・・。

人間「小津安二郎」に出会える作品。
小津安二郎監督本人が遺した「日記」を軸に、小津監督の生涯と映画製作を時系列でたどっていく・・まるで、監督に寄り添って同じ時を過ごしているような139分。
私の中のドキュメンタリー映画のイメージが一新されました。


Movie Review:映画感想

『The Ozu Diaries』 監督:Daniel Raim(ダニエル・レイム)

『The Ozu Diaries』は、まさに小津安二郎監督の魂に触れるような作品でした。

小津監督が自ら記した日記をもとに、 その生きた証を現代に蘇らせてくださったダニエル・レイム監督に、心から感謝しています。

小津監督の生涯は60年と決して長くはありませんでしたが、彼は自身の日記にその人生を驚くほど細やかに刻んでいました。その記録がスクリーンに映し出されることで、その存在をより深く実感することができました。

監督の想いと、多くの方々の尽力によって完成したこの作品が、 日本でも広く、深く、多くの方々の心に届くことを願ってやみません。


【泥中の蓮】
最も心を揺さぶられたのは、「泥中の蓮」への小津監督の思いでした。 ・・
「泥中の蓮」。私にとっても、個人的に深い思い入れのある言葉なのですが。

これまでは、山中貞夫監督の逸話の中で耳にしていたため、 この言葉は、どこか山中監督と結びついたものとして心に残っていました。

けれど今回、小津監督ご自身もこの言葉に強い思いを抱いていたことを知り、 嬉しい驚きとともに、胸がいっぱいになるような感動を覚えました。

「蓮を描くには二通りの方法がある」と。
・・泥を描いて蓮を想像させるか、蓮を描いて泥の存在を感じさせるか。

小津監督は、美しい「蓮」を描くことで、
観客に「泥中」・・混沌や葛藤を静かに伝えていたと。
その深さに、今も心が震えています。


【引き算の美学】
小津監督といえば「赤」。 ・・とは思っていましたが、
「アグファカラーの赤」を際立たせるために、
周囲の色を“引き算”するという、 その色彩の見せ方には、思わず鳥肌が立ちました。
自分の理解の浅さが、少し恥ずかしくなるほどです。


【無】
小津監督の墓石に刻まれた「無」という一文字。
それが何に由来するのか、ずっと気になっていました。
今回、その答えをいただくことができました。


【反戦】
『秋刀魚の味』の中で、笠智衆さん演じる主人公・平山と、かつての部下だった坂本(加東大介)との会話・・

坂本「もし(戦争に)日本が勝ってたら、どうなったんですかね?」
平山「けど、負けてよかったんじゃないか。」

このシーンからは、小津監督が戦争そのものにも、戦争に勝つことにも否定的だったことが伝わってくるようで、私の心にも強く残っています。

戦地から生還した者が、心の傷を乗り越えるために、「死」さえも無かったことにして生き直す・・
その苦しみは、近年の『ゴジラ-1.0』でも描かれていましたが、
戦争の悲惨さを直接描くよりも、むしろ静かに、ずしんと胸に迫ってきます。


【麦秋の金】
『麦秋』のスクリーンいっぱいに広がる麦畑のシーンを観て、 安田監督の『ごはん』に登場する、一面の稲穂の風景を思い出しました。

どちらも、美しく、そして印象的。 だからこそ、そこに込められた“伝えたい想い”が、まっすぐに胸に届くのだと思いました。


【カメラ目線】
小津作品にたびたび登場する“カメラ目線”。
ずっと不思議だったんですよね・・。 一般的にはご法度とされる手法なのに、 登場人物と目が合うことで、自然とスクリーンの中に引き込まれていく感覚がある。

それを違和感なく成立させてしまうところに、 『小津安二郎の凄さ』があるように思います。


【小津の声・こうへいさん】
こうへいさんの声が印象的で、耳から離れません。
ご本人についても、とても気になっています。


【蓼科】
蓼科での小津監督と野田高梧さんの姿も、とても印象的でした。
お二人が晩年にたどり着いたのが、なぜ蓼科だったのかは分かりませんが、
私自身の地元に近いこの地を、 お二人が愛してくださったことを、ただただ誇らしく感じられます。


【小津安二郎とご両親】
小津監督の作品が、ご自身のご家族への深い愛から生まれていることを、改めて実感しました。
お父様やお母様との関係が、作品の根底にしっかりと息づいているのですね。


【ハロルドとリリアン】
『ハロルドとリリアン』を撮られたレイム監督だからこそ、ここまで深く小津監督に迫り表現することができたのだと、心から感じました。


【ヌーヴェルヴァーグたれ!】
※ヌーヴェルヴァーグ(フランス語:新しい波)

これは私の個人的な解釈ですが、 「ヌーヴェルヴァーグたれ!」という言葉には、 ダニエル・レイム監督から、すべての映画製作者へのメッセージが込められているように感じました。

ここだけは、まさにレイム監督ご自身の想い。
むしろ、この言葉を伝えるために『The Ozu Diaries』を製作されたのではないか・・ そんなふうにさえ思えるのです。

『常識』にとらわれず、 自由に、
自分だけの“波”を起こす。
そんな小津監督のように、しなやかに、強くあれ!

この映画を、この言葉を、 すべての映画製作者を目指す方々へ・・ とくに、私たちの映画祭に応募してくださる、 未来の日本の映画を担う皆さんへ、心から届けたいと思いました。


【第29回 小津安二郎記念・蓼科高原映画祭】
来年も、 第29回 小津安二郎記念 蓼科高原映画祭の開催を予定しています。
もしダニエル・レイム監督から、直接お話を伺うことができたら・・ お伺いしたいこと、お伝えしたいこと山ほどあります。


【そして・・・】
小津監督の晩年の作品をプロデュースされた「元・小津組プロデューサー」であり、今もなお私たちの映画祭の精神的な柱のような存在である、小津安二郎記念 蓼科高原映画祭 永久名誉顧問・山内静夫さん。
その生前の、にこやかに小津を語るお顔を拝見できたことも、とても嬉しく胸が熱くなりました。


・・・映画『The Ozu Diaries』ジャパンプレミア感想後期

「小津安二郎」という人に、スクリーン越しに出会えた気がしました。深く…深く…心に残る、139分。この映画を観たあと、「小津安二郎監督作品」を無性に見返したくなりました。
でも、この映画を知らずに小津作品を観るのは、もったいない!――そう思えるほどです。
日本人は、「小津安二郎」というかけがえのない遺産を持っている
そのことに、あらためて気づかせてくれたダニエル・レイム監督に、心から感謝を捧げます。ありがとうございました。

Watching this film felt like meeting Yasujirō Ozu himself—through the screen, across time.
139 minutes that linger… deeply, profoundly… in the heart.
After seeing it, I was overwhelmed by the urge to revisit Ozu’s films. But now I believe: to watch his work without knowing this documentary is to miss something essential.
Yasujiro Ozu is a priceless legacy we carry as a nation. And it was Daniel Raim who reminded me of that truth.
To him, I offer my deepest thanks.

Thoughts on "The Ozu Diaries"
-- Japanese premiere at the 38th Tokyo International Film Festival (Nov 2, 2025)


『The Ozu Diaries』
監督:Daniel Raim(ダニエル・レイム)
2026年 劇場公開予定
協力:オフィス小津、野田高梧記念蓼科シナリオ研究所、松竹
第81回ベネチア国際映画祭(2025年)
「Venice Classics(ヴェネツィア・クラシックス)」部門正式選出。

小津安二郎監督とダニエル・レイム監督との、次元を超えた出会いの奇跡に、心から感謝を込めて。
With heartfelt gratitude for the miraculous connection that transcends time and space between Yasujiro Ozu and Daniel Raim.

上映前に少しお話しできる機会があり、
ダニエル・レイム監督が、「"To me, today is the real world premiere."(僕は、今日がワールドプレミアだと思ってる!)」とうきうきと仰っていらしたのが、とても印象的でした。


とってもチャーミングなダニエル・レイム監督

小津安二郎の世界をどう描いたのかーダニエル・レイム監督が語るQA
動画:<東京国際映画祭 Youtube チャンネル>
https://youtu.be/A4-hTVZmaMU

【The Ozu Diaries】 | 第38回東京国際映画祭
2025/11/02 [SUN] 14:00 (本編139分)
https://2025.tiff-jp.net/ja/lineup/film/38008CLA14

TOKYO INTERNATIONAL FILM FESTIVAL 2025
https://danielraim.com/the-ozu-diaries